広島高等裁判所 昭和44年(ネ)139号 判決 1971年10月13日
控訴人 吉田卓郎
被控訴人 松上信子
主文
本件控訴は、昭和四五年一〇月一六日の経過により取下げられたものとみなされ、訴訟は終了した。
控訴人の昭和四六年一月三〇日附書面による口頭弁論期日指定申立後の訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、昭和四六年一月三〇日附書面をもつて、本件訴訟について口頭弁論期日の指定を求める旨申立て、その事由として、本件控訴事件は、昭和四五年七月一六日午前一〇時の口頭弁論期日に当事者双方が出頭せず、かつその後三ケ月以内に期日指定の申立がされなかつたとの理由により同年一〇月一七日控訴の取下があつたものとみなされているが、次のとおり本件控訴事件は未だ終了していないから口頭弁論期日の指定を求めると述べた。
(一) 当時の控訴代理人渡部利佐久は、右口頭弁論期日の前である昭和四五年七月一三日被控訴代理人の同意を得た口頭弁論期日変更申請書を作成し、同申請書は、同日午後七時頃広島弁護士会尾道地区会事務員杉原久子によつて速達郵便物として尾道郵便局に差出されているから、遅くとも同月一五日までには広島高等裁判所に到達しているが、これに対し同裁判所は期日変更申請却下の決定をしていないから、当然に右口頭弁論期日は変更されたものというべく、したがつて、本件訴訟は、同裁判所になお係属中である。
(二) 仮りに、右期日変更申請書が右口頭弁論期日後に同裁判所に到達したとしても、同申請書の提出により控訴人の訴訟追行の意思が表明されているのであるから、裁判所としては、同申請書を期日指定の申立とみて新期日の指定をすべきである。したがつて、本件訴訟は、未だ終了したものとはいえない。
被控訴代理人は、控訴代理人主張の期日変更申請に同意したことは認めるが、その余の控訴代理人の主張は争うと述べた。
理由
一、控訴審の口頭弁論期日に当事者双方が適式の呼出を受けたにもかゝわらず出頭せず、その後三ケ月以内に当事者のいずれからも期日指定の申立がされなかつたときは、民事訴訟法三六三条二項により同法二三八条が準用され、控訴の取下があつたものとみなされることになる。
しかして、本件記録によると、本件控訴事件については、昭和四五年四月二四日に口頭弁論期日を同年七月一六日午前一〇時と指定され、同期日の呼出状は、それぞれ当事者双方の訴訟代理人に適式に送達されたにもかゝわらず、当事者双方とも同期日に出頭しなかつたこと、その後三ケ月以内に当事者のいずれからも期日指定の申立がされなかつたこと、及び本件控訴が昭和四五年一〇月一六日の経過により取下げられたものとみなされたことが明らかである。
二、これに対し、控訴代理人は、本件訴訟は未だ終了していない旨主張しているので、その主張の当否について順次検討する。
(一) まず、控訴代理人の主張(一)について考えるのに、仮りにその主張の日時に口頭弁論期日変更申請書が尾道郵便局に差出されたとしても、同申請書に押捺された当庁の受付スタンプ及び当庁の昭和四五年度民事受理日記簿の記載によると、同申請書が当庁に到達受理されたのは同年七月一八日であることが明らかであるから、右申請書が同月一五日までに当庁に到達していることを前提とする控訴代理人の主張は理由がない。のみならず、口頭弁論期日の前に期日変更申請書が提出されたとしても、裁判所がその申請を却下しなかつたことによつて、当然に期日変更決定がされたことにはならないから、その点からいつても控訴代理人の主張は失当である。
(二) 次に、
控訴代理人の主張(二)について考えるのに、その主張する期日変更申請書は、同書面の記載内容によつて明らかなとおり、あくまでも昭和四五年七月一六日の口頭弁論期日の変更を求めるものであつて、同期日に当事者双方が不出頭であつたために新たに期日指定の申請をした趣旨のものであると解する余地はなく、また、本件のように口頭弁論期日に当事者双方が出頭せず、その後に過去の期日の変更申請が提出された場合、これによって直ちに訴訟追行の意志が表明されたものと推断することもできない。殊に、本件のように弁護士が訴訟代理人になつている場合、弁護士は、事件の依頼を受けて訴訟を追行することをその重要な職務の一つとしているのであるから、依頼された訴訟事件の進行状況についてはたえず留意し、口頭弁論期日の変更申請をした場合でも、申請にかゝわらず期日が開かれたかどうか調査し、期日が開かれて双方不出頭となつている場合には期日指定の申立をすることにより訴訟終了という事態を招来させないよう適切な措置をとるものと考えるのが通常であつて、訴訟代理人たる弁護士がこのような措置をとらない以上、むしろ当事者本人の意向により訴訟の追行を断念したものと推測されるのである。したがつて、本件のように口頭弁論期日終了後にその期日についての変更申請書が提出された場合、当然に新期日の指定をすべきものということはできないから、控訴代理人の主張(二)も採用するに由ない。
三、してみると、本件控訴は、昭和四五年七月一六日の口頭弁論期日後三ケ月以内に当事者のいずれからも期日指定の申立がされなかつたため、同年一〇月一六日の経過により取下げられたものとみなされ、こゝに訴訟は終了したものという外ない。
よつて、当裁判所は、本件訴訟が終了した旨の終局判決をなすべきものとし、訴訟終了後の口頭弁論期日指定申立後の訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 胡田勲 森川憲明 大石貢二)